20070311

[表現]阿部公房 『砂の女』

阿部公房『砂の女』新潮社 から

比喩表現・描写・薀蓄 をメモ

  • 映写機が故障したように、二人はじっと動かなくなった 147
  • ふいに、ひんやりと濡らしたハンカチのような影がおちた。雲が出たのだ 164
  • 苦痛が、そっと周囲の風景のなかに引いていく。 173
  • 見当をつけそこねて、はみ出してしまったようなはしゃぎかただ 178
  • 胃を吐き出して吠える、不安な犬 179
  • 静かだ!‥‥まるでゼラチンの底に閉じ込められているようだ 199
  • 手段の目的化による鎮痛作用 199
  • 野次馬的な好奇心だけは、もぎ忘れた柿の実くらいには熟しきっているにちがいない 88
  • 死んだ蠅の脚のような活字 101
  • 何度か鼻面をぶつけて、金魚鉢のガラスが通り抜けられない壁であることを、はじめて知った魚137
  • 罰とは、とりもなおさず、罪のつぐないを認めてやることにほかならないのだから 60
  • たしかに労働には、行先のあてなしにでも、なお逃げ去っていく時間を耐えさせる、人間のよりどころのようなものがあるようだ 177
  • 傷だらけの片道切符を、鼻歌まじりにしたりできるのは、いずれがっちり往復切符をにぎった人間だけに決まっている 181
  • 猛獣映画や、戦争映画のたのしみは、たとえ心臓病が悪化するほど、真に迫ったものであったとしても、ドアを開ければすぐそこに、昨日の続きの今日が待っていてくれるからなのだ 203
  • 互いに傷口を舐め合うのもいいだろう。しかし、永久になおらない傷を、永久に舐め合っていたら、しまいに舌が磨滅してしまいはしないだろうか 231
  • あてもなしに、ただ待つことに馴れ、いよいよ冬ごもりの季節が終わったときには、まぶしくて外に出られないということだって、十分に考えられるわけである 239
  • けっきょく砂地の乾燥は、単に水の欠乏のせいなどではなく、むしろ毛管現象による吸引が、蒸発の速度に追いつけないためにおこることらしい 259


故事成語・慣用句・その他言葉の意味

万事休す
  1. すべてが終わりである。もう何とも施すべき方法が無い 広辞苑
  2. すべてのことが休んでしまった。これ以上先に進まない 言葉のレシピ 語楽より一部引用 
  Webで調べてみると唐の李白の詩と宋史、この2方面から出典がある様。しかし、それぞれ成語のいきさつ話として納得のいくようなエピソードではないと感じた。というのも、この「万事休す」という語に関しては、「すべてのことが休んでしまった」という字面通りの現代語訳からでも、その意味が十分に伝わると思うからだ。検索をかけて引っかかった主な2つのエピソードは、成語の由来としての故事ではなく、使用例としての故事といった方がいいのかもしれない。


さいなむ(苛む)
  1. しかる。責める
  2. いじめる。苦しめる。むごく当たる。折檻する  広辞苑
「だが、そう思ったとたんに、ひどい屈辱に息をつまらせた。遠からず、女をさいなむ刑吏になりはてた自分の姿が、まだらに砂をまぶした女の尻の上に、映し出されるような気がしたのだ。」 61


賽の河原
  1. 小児が死んでから苦しみを受けるとされる、冥途の三途の河原。石を拾って父母供養のため塔を造ろうとすると鬼が来て壊す、これを地蔵菩薩が救うという。転じて、いくら積み重ねても無駄な努力 広辞苑
  2. 親より先に亡くなった幼児たちは極楽には行けず、本来なら不孝の罪によって地獄に行くところが、幼少のため、この賽の河原にとどまり、一つひとつ小石を積み上げる
  3. 参考:地蔵和讃


狼狽
  1. (「狽」は狼の一種。一説に、狼は前足が長く後足は短いが、狽はその逆。両者は常に共に行動し、離れると倒れて、うろたえることから)あわてふためくこと。うろたえ騒ぐこと。
  2. 「うろたえる」とは、不意の出来事に驚きあわてて、まごつくこと、とのこと。 広辞苑
 ※若干補足すると、「 この二つの動物はお互いを支え合って生活をしており、狼は狽無しに歩くことが出来ず、狽も狼無しには歩くことが出来ない。もし、この二匹が離れるようなことがあれば、動き回る事ができなくなってしまう」。そして、狽とは架空の動物であるとのこと。そんな架空の動物が、実際に存在する狼と行動を共にする理由がわからない。そこから「この意味の中の狼は現在の狼の事とは微妙に別物らしく、お互いがバランスを取り合って生活しているという意味の話に出てくる存在らしい」という説もある。また、現在、中国語で「狼狽」と言うと、日本とは異なり「散々苦しんだり、悩んだりする」という意味らしい。
 ※また、中国語で「狼」は牝狼を意味する(牡は別の字)こと等から、狼をメス・狽をオスと無理やり仮定した上で、「(前足の長い)狼の後ろに(後ろ足の長い)狽が乗る」というもう一つの説明を合わせて考えた結果、「狼狽」したのは他ならぬ二匹の、「オスがメスの上に重なっている状態」を見られたからかもしれない、と導く面白い解釈もある。たぶんそんなことはないと思うが‥
 ※参考
    http://page.freett.com/kiguro/z-gogen.html
    http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Ink/3399/sitteru0.htm
    http://tisen.jp/tisenwiki/index.php?%CF%B5%C7%E2