20070605

[本]田中ランディ『オクターヴ』

田中ランディ 『オクターヴ』ちくま文庫


マホが、バリでの通過儀礼を経て、「社会を超えて〈世界〉にコミットしながら、でも社会の中で生きていく」あり方に変容するお話。音-絶対音感、世界-社会。

あらすじ

マホは行方不明となったミツコを探しに、日本からバリへやってくる。ミツコとは音大時代からの友人。二人の共通点はピアノ。ミツコの奏でるピアノの音は、単なるピアノの音という枠に収らず、なにか新しい世界を切り開くような特別な力を持った音だった。音楽の神様が降りてきたようなその音に、聴く者は皆魅了された。天才であった。一方マホは、ピアニスト崩れの母に幼少の頃からピアノ教育を施されていた。だが、その才能はなく、長い鍛錬の中で習得されていたのは絶対音感だけ。マホと母親を結びつけていたピアノという唯一の絆を壊さないようにマホはピアノを弾いていた。ピアノは生きる意味と同化していた。高校生の時から、母からピアノの才能がないと不平を言われることが多くなり、母は弟のピアノ教育に必死になった。その時マホは自分が失敗作なのではないかと感じた。そのことがあって、ある時からマホは母の声が単なる音階にしか聞こえなくなりそれによって自分が自分でないように感じてしまう発作が起こるようになる。またその際、記憶が途切れ途切れで曖昧になり、無自覚のうちに母の首を何度か絞めたりした。解離性障害と診断された。

大学を卒業したしばらく後、マホはフリーライターに落ち着く。ミツコは作曲家や演奏者として世に出ようとしていた。だが、ミツコは突然姿を消してしまう。しばらくしてマホの許に三通の絵葉書が届く。どうやらミツコがバリから送ったらしい。しかし、三通目を最後に音信が途絶えてしまった。果たしてミツコが無事か心配になったマホは、ミツコの下宿先へ手紙を送ってみる。返信がきたが、それはミツコによるものではなく、下宿先の人からだった。

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